こんにちは。群馬県の北軽井沢にある「-be-北軽井沢キャンプフィールド」の佐久間と申します。
若かりし頃、日用品メーカーでサラリーマンをしていましたが、キャンプの世界で飯を食っていきたいと一念発起。いつか自分のキャンプ場をやりたいと夢を抱いていました。それが念願叶い、2023年4月、無事にキャンプ場をオープン。日々、悪戦苦闘しながら、1組1組キャンパーさんをお迎えし、キャンプを楽しむ場を提供しています。
今回から2回に分けてキャンプ場についてのコラムを書かせていただく機会をもらいました。キャンプ場を始める前のスタッフ・アルバイトだったころの話から、実際にキャンプ場を経営してみて感じたこと。そして、ついに夢を実現して手にしたキャンプ場をこれからどうしていきたいと考えているのか。コロナ禍を経て、いまは少し冷たい風の吹くキャンプ業界ですが、こんな考えを持ってキャンプ場をやっている若者がいるのかと知ってもらえたら幸いです。
プロフィール
佐久間亮介
-be-北軽井沢キャンプフィールド オーナー
脱サラ後、キャンプを仕事にするためにフリーランスに。キャンプ情報のブログ立ち上げ、ライター、モデル、キャンプコーディネーター、イベント企画・運営などを経て、キャンプ場オーナーに。日本オートキャンプ協会公認インストラクターでありつつ、インストラクター向け講習の講師も務めている。著書に、キャンプにまつわる仕事をまとめた本「キャンプ職業案内」(三才ブックス)がある。
キャンプ場で働きながら日本一周キャンプ旅。
はじめに、自己紹介をさせてください。1990年東京生まれで、初めてのキャンプは大学生になってからという人間です。大学を卒業後、日用品メーカーで営業マンをしていましたが、激務によって体調不良に。心身ともに疲弊していたとき、自然の中でゆっくりとした時間を過ごすキャンプに救われ、キャンプをもっと世の中に広めたいと考えて無謀にも退職を決意。脱サラ後は、200を超えるキャンプ場を巡って日本一周。キャンプに関する情報をブログで発信しながら、いくつかのキャンプ場でアルバイトをさせてもらい、その旅を進めていました。「日本一周キャンプの旅」をした経験がある人は、多くはないけれど少なくもない。夏ごろになるとバイクや自転車で全国を旅している人を見かけますが、キャンプ場で働きながら日本全国を旅した人はそう多くはないでしょう。
有野実苑、オートキャンプin勝浦まんぼう、オートリゾート八雲、サンタヒルズ、北軽井沢スウィートグラス、フォンテーヌの森、リゾート大島などなど・・・。北は北海道、南は和歌山まで。いろんな方の伝手をお借りして、キャンプ場でアルバイトをさせてもらう機会に恵まれました。そこではキャンプ場のリアルな業務体験に加え、各キャンプ場のオーナーさんやスタッフさんとお酒を飲み交流を深めることもありました。
経験したキャンプ場の業務内容は、多岐にわたります。草刈りや落ち葉掃除といった場内整備の作業、トイレ・炊事場の掃除、チェックイン対応、BBQ器材のレンタル、シーカヤックなどのアクティビティのインストラクター、クリスマスなどの季節イベントの準備・運営、夜の見回りなど、キャンプ場に関する業務の多くをこの頃に経験。そうやってキャンプ場で働いているうちに、キャンプ場という場所がたくさんの人が幸せになる場であることに気づいたのです。週末にもなると100組近いキャンパーが来場し、それぞれがそれぞれに楽しい時間を過ごす。隣のサイトの人は赤の他人だけど、みんな共通してキャンプを楽しみに来ていて、場内はそれぞれの幸せに溢れ、温かい空気感がそこにあります。しかも、その空間、空気感の一部は、自分が整備したその場で起きている。その感触が忘れられず、「いつか自分の手でこの空気感を作りたい」と思ったのが今に至るきっかけです。
「-be-北軽井沢キャンプフィールド」は総面積約9400坪、最大70組程度がキャンプできる中規模のキャンプ場です。標高約1000mに位置していて、白樺やモミなどの高原らしい植生と野鳥の鳴き声がよく響きわたるフィールドです。実は、この場所はかつて「クリオフィールド」という名でキャンパーさんに親しまれていたキャンプ場だったのですが、前管理人が辞めてしまってから数年手付かずの状態に。しかしながら、初めてここを訪れたときに「ここにテント張って、キャンプしたい!」となんともいえない気持ちのいい空気感に魅了され、この場を再生させてキャンプ場経営をスタートすることを決意しました。2025年1月現在で、運営開始から2シーズンが経過したところです。
自分の思いをお客さんと共有できる喜び
キャンプ場の夢を実際に実現してみて感じること、それはやっぱり「充実感」です。正直に言えば、大変なこともたくさんあります。いや、大変なことばかりです。前述したとおり、キャンプ場の業務は一通り経験していたつもりでしたが、ここはリノベーションが必要だったこともあり、そもそもの土地改良の土木工事が必要でした。それに加えて、予約の管理やHP・SNSの立ち上げと更新、チェックインや売店の対応など、キャンプ場の仕事は土木業でありながらもサービス業でもあります。ホテルなどのようにスタッフを抱え、それぞれが分業してやれれば一番いいのかもしれませんが、小さなキャンプ場はそうもいきません。今までは、キャンプ場全体の仕事の一部をやっていたのが、このキャンプ場で起こることすべての最終的な責任が自分に覆い被さります。売上も利益も計算しなければいけません。「経営とは、こういうことなんだ。」と日々、その大変さを感じながら、今まで自分が出会ってきたキャンプ場オーナーの皆さんへの敬意の気持ちがさらに大きくなったものです。
そんな大変な仕事でありながら、それでも充実感を得られるのは、やっぱり、キャンパーさんが自分が準備したフィールドで楽しそうに過ごしてもらえるから。受付時には、暗い顔をしていたお客さんがチェックアウトの時には満面の笑みで出発していくと、ここでの時間が有意義なものだったのだなっとホッとします。
自然の中でのキャンプの時間を最大限楽しんでもらいたいので、場内整備は「やりすぎない」ようにしています。でも、危険なところはもちろん事前に取り除いています。その匙加減はオーナー・運営者の色が出るところだと思うのですが、その色に反応してくれて「あなたがここの自然を大切にしていることがすごく伝わってきて、過ごしていてとても心地よかったです」と伝えてくれたシニアキャンパーさんがいました。自分が何を大切にしてキャンプ場をやっていて、そのためにどういう準備をしているのか、キャンプ場のPRのためにHPや動画、写真などでそれを伝えることももちろん大事ですが、言葉を介さずとも「場の空気」がキャンパーさんに伝わり、この場の気持ちよさをキャンプ好きなお客さんと共有できたことはこの上ない喜びでした。
キャンプ場のスタッフとキャンプ場経営者の大きな違いのひとつは、自分の意思の裁量の大きさと、その裁量の大きさゆえにユーザーから返ってくるもののインパクトです。当然、大きな責任も伴いますが、得られた充足感はスタッフのころとは比較にならないものがあります。
もし、いまキャンプ場で働いている、あるいはキャンパーで、いつかキャンプ場を経営してみたいという人がいたとするならば、このやりがいの大きさについて語るとともにそのやりがいの裏にある責任の大きさについても共有し、その人が実現したいキャンプ場の姿について語り合いたいです。
<後編に続く>