防災とキャンプの関わり方 ①

2024年2月12日

①危機に襲われたら『STOP』する―発災時のマインドセット

〈自助、共助、公助〉

災害の際に言われる自助と共助と公助というものがあります。自助は自分でできること、これには家族での助け合いも含まれます。共助は隣近所との助け合いになります。私も災害対策を学ぶまでは隣の家の方とは挨拶をする程度でしたが、共助という概念を学んでからはお話しできる機会があれば一言二言会話するようにしています。そして最後に自治体や警察、自衛隊などに助けてもらう公助です。しかし、公助に至るまである程度のお時間がかかります。

〈発災時のマインドセット〉

被災した場合のマインドセットについてお話させていただきます。セキュリティの専門家の間で言われている有事に生き延びるための原則として、まず危機に襲われたら『STOP』せよとあります。『STOP』は発災時のマインドセットとしての行動指標です。これはナショナルジオグラフィックの『世界のどこでも生き残る 完全サバイバル術』にも記述があります。日本において『STOP』の概念が出てきたのはつい最近のことですが、自衛隊や消防、警察の方は訓練の中でこれを習得されています。訓練すると頭で考えるより先に行動できるようになるそうです。『STOP』の具体的な意味はそれぞれの頭文字で、

  • Stop…動きを止める
  • Think…一旦落ち着く
  • Observe…状況を把握する
  • Plan…行動を計画する

となります。発災の瞬間にパニックになる方が多くいます。過去の震災時にも建物から飛び出して屋外で落下物に当たったり、物にぶつかってしまってけがをする方がおられました。逆に発災の瞬間にピタッと固まって動けなくなってしまう方がおられます。この状態をカウンターパニックといいます。『STOP』ではこのカウンターパニックを活用します。動けなくなることを逆手にとって、一瞬立ち止まり落ち着こうとするのです。そして周りをよく観察して、次に何ができるかを考えます。そしてその考えに沿って行動します。それが『STOP』の概念です。その『STOP』の際に使えるワイドアングルビジョンという周囲の観察方法があります。ワイドアングルビジョンの簡単な方法をお示しします。

〈ワイドアングルビジョン〉

ワイドアングルビジョンは広角度視野と訳します。これに対して普段我々が一般的に使っているのがトンネルビジョンです。文字を読むとか物体を認識するためには、それに集中する必要があります。これはトンネルビジョンでしかできないことです。ではワイドアングルビジョンはどのうように使えばよいのでしょうか。人間の五感のうちで視覚が占める割合は約80%と言われています。つまり人間は目から入ってくる情報で多くの物事を認識しているということになります。そこで『STOP』の瞬間にワイドアングルビジョンで回りを観察して、視覚以外からの情報も受け取るのです。
例えば耳、例えば臭いで建物がきしむ音や、ガスの臭いなど、目で見えない情報を受け取ります。人間は視覚を遮断すると視覚以外からの情報を受け取りやすくなります。ワイドアングルビジョンの簡単なやり方です。両手の人差し指を立てた状態で両手を視界に入れたまま少しづつ広げていきます。180度まで広げた状態で人差し指を動かします。指の動きが感じられるところまで手を広げます。200度近くまで広がるのではないでしょうか。この状態で前を見ると見ているようで見ていないボーっとした状態になります。これがワイドアングルビジョンです。この状態だと音や臭いにも敏感になりやすくなるのがわかると思います。

私はこのワイドアングルビジョンを土日に従事している地元自治体の有害鳥獣駆除の際に使用しています。私は巻き狩りという狩猟の方法でグループで鹿や猪の駆除を行っております。狩猟犬が追いかけてくる獲物を長いときには3、4時間同じ場所で動かずにじっと待つこともあります。その際にはほとんどワイドアングルビジョンの状態で待機しています。私は心静かに過ごせるその時間がとても好きです。落ち葉が地面に落ちる音もよく聞こえるので、獲物が遠くから走ってくる音などはハッキリと認識することもできます。発災時にはこの感覚を使用して周りの状況を確認し、次の行動に移すことが出来るように訓練します。

〈建物からの脱出法〉

震災などで建物に閉じ込められた場合の脱出法の一つをお伝えします。煙が充満した建物で脱出するのは大変なことです。低い位置で空気を確保しながら進むのも容易ではありません。その場合、非常口誘導灯は高い位置にあり見えないことがほとんどです。建物から脱出する方法の一つに壁伝いに進む方法があります。壁伝いに進んでいけば何らかの出口に出られる可能性があるからです。その場合に手で壁を伝って動くと熱さや突起物で手を負傷してしまうかもしれません。壁伝いに進む場合は足を延ばして壁伝いに進む方法があることを覚えておくとよいでしょう。


(執筆)
嶋田 嘉人(JAC公認オートキャンプ指導者インストラクター)
嶋田嘉人防災士事務所 代表
アウトドア、災害対策、格闘技の各種セミナーを開催。普段は外資製薬会社のMRです。副業の個人事業主として活動しています。