防災とキャンプの関わり方⑤ 通勤バッグに収まる「常用持ち出し袋」―「非常用持ち出し袋」と「常用持ち出し袋」の違い

2024年6月13日

【非常用持ち出し袋】

「非常用持ち出し袋」については様々なメディアでその中身について解説されているので今回は一般的に触れられていない部分についてお話したいと思います。

「非常用持ち出し袋」の中身についてはジップロックのような防水性のあるチャック付きの袋に入れておきましょう。
袋の単位は先の『②命を守る5要素と優先順位―生命維持に必要なものとその時間を知る』でもお話しさせていただいた5要素ごとにまとめていただくと分かりやすいかと思います。

「体温」に関するアイテム、「水」に関するアイテム、「火」に関するアイテム、「食」に関するアイテム等に分けて考えます。ジップロックは大小様々な大きさが揃っているので大変使いやすいです。

袋の中身はライトや月明かりのない暗闇でも中身が把握できるようにしておきましょう。

1、バッグのファスナー、ジッパー(チャックとも呼ばれますが)について

セキュリティの専門家から教えていただいた事柄の一つに、バッグのファスナーは常に真ん中で使用するようにすること、があります。ファスナーを真ん中で使用することにより片方のファスナーが破損した場合でも、片側半分のファスナーは開くことが出来るので必要な物を取り出すことが出来る、ということです。

2、アイテムについて

「1つのアイテムで2つの役割に使える物」という考え方があります。
これは「1つのアイテムで2つ以上の使い方が出来ること」というふうに理解していただけるとわかりやすいかと思います。
例えば料理をする際に使用するクッカーです。クッカーは火にかけて調理できることは勿論、浄水器に使用する水をすくったり、『④サバイバルを終わらせるシグナリングー救助者に見つけてもらうために必要なこと』の「聴覚」シグナリングでも使用した鍋を金物で叩いて音を出す、といった使い方もできます。ビクトリノックスに代表される万能ナイフのように1つのアイテムに最初から幾つもの機能が備わったアイテムを用意することも有用だと思います。それに加えて1つのアイテムの様々な使用方法を検討することにより、「非常用持ち出し袋」に用意するアイテムの数を減らすことが出来ます。

3、「非常用持ち出し袋」の形態について

先のセキュリティの専門家が自宅に用意されている「非常用持ち出し袋」の形態として「非常用持ち出しベスト」があります。必要な最小限のものをベストに装備して数日間を過ごせるようにしているものです。私は有害鳥獣駆除の際にこのベストを自分なりに作成して使用しており、非常時にはとりあえずこのベストを持ち出せば数日間過ごせる最低限の装備を備えています。

 

【常用持ち出し袋】

「非常用持ち出し袋」に対して「常用持ち出し袋」があります。
「常用持ち出し袋」はEDC―Every Day Carryと言われます。日常に持ち歩ける大きさの袋に最低限のアイテムを詰め込んで持ち歩くのが一般的です。大きさも個人の判断で様々な大きさになります。普段バッグを持ち歩いている方はそれなりの大きさのものが持ち運べますが、バッグを持ち歩かない方が「EDC」を持ち歩く場合はベルトポーチ等のごく小さいものになることもあります。ここでは具体的な中身については触れませんが、「EDC」を持ち歩く際に気を付けていただきたい点についてお話しします。

先ほどのマルチツールナイフを「EDC」として持ち歩くかどうかについては難しいところです。私は以前、愛知県警察本部に電話して「EDC」として持ち歩いた場合の職務質問等で軽犯罪法が適用されるか否かを確認したことがあります。いただいた回答は「現場の警察官の判断によります」とのことでした。昨年11月には十徳ナイフの所持をめぐって裁判が行われ無罪になりましたが、この例が全ての場合において適用されるかどうかの判断は難しいと思います。マルチツールの中にはナイフ等の刃物のついていないものも販売されておりますが、プライヤその他の機能が軽犯罪法に抵触しないかどうかの判断はどうなのでしょうか。

普段仕事や通勤で自動車を使用される方は、車の中に「非常用持ち出し袋」を常備するという方法もあります。これが「非常用持ち出し袋」なのか「EDC」なのかは意見が分かれるところですが、通常の「EDC」よりもはるかに多くのアイテムを持ち運べるという点では「非常用持ち出し袋」になるかもしれません。

私は家や車のキーに小さなLEDライトを装着して普段から持ち歩いています。また普段使用しているGarminのスマートウォッチにもトーチ(ライト)機能があり重宝しています。これも「EDC」の一つとして機能しております。ただしタクティカルライトに代表される非常にまぶしいLEDライトは職務質問された際にはマルチツールナイフと同様の扱いになりますのでご注意ください。

このように「非常用持ち出し袋」と「常用持ち出し袋」の中身については、悩めば悩むほど深みにはまっていくものですが、その度に小さく、かつ機能的な持ち出し袋に繋がることを信じてご自身の究極の持ち出し袋を目指してください。


(執筆)
嶋田 嘉人(JAC公認オートキャンプ指導者インストラクター)
嶋田嘉人防災士事務所 代表
JBS認定『ブッシュクラフトインストラクター』、JUSS認定『災害対策インストラクター』、アーバンシラット協会認定『インターミディエートインストラクター』で各種セミナーを開催。普段は外資製薬会社のMRです。副業の個人事業主として活動しています。