ぼくの学校は世界中 番外記第8回
子連れでキャンピングカーで世界一周、四大陸、50ヶ国、12万キロを走破した雲野さんの物語
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1 グアテマラから再びメキシコへ ― コロナ禍の“旅人の最後の砦”
コロナ禍の半年間、私たちはグアテマラで陸路国境の再開を待ちながら自粛生活を続けていた。しかし再開の兆しはなく、南下計画は完全に白紙に。そこで方向転換し、再び北へ──メキシコを目指した。

2020年3月のパンデミック以降、世界のほとんどが国境を閉じるなか、メキシコ・トルコ・エジプトの3カ国だけが外国人旅行者を受け入れていた。なかでもメキシコは規制が圧倒的に緩く、PCR検査すら不要。“旅人の最後の砦”とも言える状況で、世界中の旅人がメキシコへ流れ込んでいた。
国境を越えた瞬間、グアテマラの全員マスク義務とは対照的に、メキシコではほとんどの人がノーマスク。あまりに違う空気感に戸惑いながらも、拍子抜けするほど簡単な入国審査を終え、ユカタン半島のトゥルムへ向かった。

トゥルムはコロナ禍にもかかわらず旅人で溢れ、ホテルもレストランも満室続き。小さな街に、異様なエネルギーが渦巻いていた。
2 ジャングルのエコビレッジで覚悟を試される
旅人で賑わうトゥルム中心部を離れ、私たちは車で30分ほど走ったジャングル奥地にあるエコビレッジ「IXCHEL」を拠点にした。セノーテを中心に、裸足で森を歩く人々、多国籍な住人、焚き火と音楽が当たり前にある“別世界”が広がっていた。

私たちはWorkawayのボランティアとして1日3時間働く代わりに、コミュニティへ無料で滞在。私はテント修繕やデッキ作りなどの力仕事を、妻は村人の料理作りを担当した。雨季のジャングルでは蚊が異常発生し、常に虫刺されと隣り合わせの暮らしだった。
サソリやタランチュラは日常だ。ある日、村人に「タランチュラはおとなしいよ」と言われ、私は試しに腕へ乗せてみた。ふさふさした脚から伝わる柔らかな感触は意外にも友好的で、タランチュラ=怖い、危ないという先入観が見事に覆された瞬間だった。

いっぽう妻や子どもたちは、コンポストトイレのゴキブリ、アリの大群、たまに現れる蛇やワニに悲鳴を上げていたが、次第に家族みんなが「自然の生態系とは本来こういうものだ」と理解しはじめていた。
3 熱病の危機と、ジャングルの知恵
そんな暮らしに慣れた頃、次男が突然40度の高熱を出し、続いて私、そして妻も倒れた。頭と関節が砕けるように痛み、動くこともままならない。症状はデング熱やチクングニア熱に酷似していて、毎日ジャングルで蚊に刺されていたことを思えば不思議ではなかった。
長年、世界の辺境を旅してきたベトナム人ボランティアのティエンが「パパイヤの葉を搾って飲むんだ」と教えてくれ、私たちはその土地の伝統療法に頼ることにした。苦く渋い特製青汁を飲みながら3日間寝込み、どうにか家族全員が回復。唯一元気だった長男が水を運び、家族の様子を見てくれたことが、本当に救いだった。

健康のありがたさと、自然の厳しさ。その両方が深く刻まれた出来事だった。
4 ジャングルでついた自信、そしてシッピングという大決断
2ヶ月のジャングル生活で、私たちは約20カ国の旅人と出会った。「世界でほぼ唯一、国境を閉じず旅人を受け入れ続けていたメキシコ」──その状況が旅人を一気に呼び込み、トゥルムやエコビレッジは“旅人のハブ”と化していた。コロナ禍とは思えないほど活気に満ちていた。
そんな環境で息子たちは大きく成長した。水を怖がっていた次男は毎日セノーテへ飛び込み、足のつかない深さでも泳げるようになり、人見知りだった性格も自然にほどけていった。世界中の大人が当たり前のように遊んでくれる環境が、彼の殻を優しく溶かしてくれたのだと思う。

しかし、肝心の陸路再開の知らせは一向に届かない。このままでは北中米4カ国だけで旅が終わってしまう──。
悩み抜いた末、私たちはキャンピングカーをメキシコから南米コロンビアへ船で送る「シッピング」を決断した。人生初の大陸間輸送で、書類・税関・検査は複雑を極め、費用は約40万円。それでも「できる範囲でベストを尽くす」ことを選び、南米へ進む準備を整えた。

グアテマラの待機生活、ユカタンのジャングルでの共同生活、熱病の危機、そしてシッピングの決断──
歴史的混乱の最中、人と自然に支えられながら前に進んだこの時間が、私たち家族の旅力を確かなものにしてくれた。旅立ちから1年8ヶ月、私たちの旅はいよいよ南米大陸へ。
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