アウトドアライター/星のソムリエ® SAM
実はキャンプで星を見る時間なんてない?
みなさんはキャンプ場で星空を楽しんでいらっしゃいますか?もしかしたら心の中のお返事では「NO=正直たのしんではいない」だったりして。なにしろキャンパーの夜は忙しいですからね!星を観るヒマなんかない(笑)
夕食の仕込みから調理、まぁ時間がかかります。そして焚き火。一瞬で終わる焚き火なんてないので、美味しいおつまみや飲み物があり、そこに楽しい話が盛り上がって、チェアに根が生えてしまって離れることもない。かれこれしているといい時間になり、就寝ルールもあるのであとは火の始末をしてシュラフに潜り込む・・
どうですか!?ズバリこうじゃないですか?星を見る時間なんてまずないでしょう。何しろ10年以上前の私だってそれの繰り返しでしたから。
アウトドアの本当の魅力を半分捨てていた
かくいう私は元々星空が嫌いなわけでもないし、単にその時間を作れなかっただけ。しかし何十年もキャンプをし続けつつ、ふとある思いに目覚めました。
「今のようなキャンプのやり方は、自分で自分のキャンプの可能性を狭めていないだろうか」と。
そんなとき、静かな夜にキャンプ場の片隅にいってみると、今までなぜか意識できていなかった圧倒的な星空が、まるでその答えを伝えるかの如くこちらに語り掛けてくれたのです。
その答えは「キミは、そもそも野外にいるのだろ?」。
そう、アウトドアってソトの世界だ、もっといえばこんなに広い宇宙にも簡単につながれるじゃないか、キャンプ場の夜ってまるで宇宙への扉。これこそ究極のアウトドア体験じゃないか。そう思ったとたん、キャンプサイトの中だけでちまちまやっていた自分のキャンプがなんと窮屈なことよ、そんなふうに思ったのですね。
その後キャンプ場に行くたびに注意深く夜空を観察し始めると、すべてのキャンプ場ごとに異なるそれぞれに際立った夜空、星空の良さがあることに気が付いたのです。これを味わって帰らないなんて、キャンプ場に来た価値の半分も味合わっていないのといっしょ、いわばキャンプ場におけるアウトドアのチケットをいつも半分しか使わずにいたのですね。
そして一念発起。だったらもっと星空への気持ちを高めていきたい、すっかりそんな思いからも「星のソムリエ®(星空正案内人)」という資格を取得しました。おかげさまで現在ではこれを仕事に年間万単位の方々に星空案内をするまでになりました。
星のソムリエ®が教える、キャンプの夜空の楽しみ方
最初に言いたいのは、理屈で星を見るのはまずやめましょう。「星座がー」、「天体がー」とか(笑)。キャンプでそんな難しいハナシは面倒くさいじゃないですか。
そんなことより暗い所にまず行って「ホンモノの星空を生のままで受け取ってみる」がいちばん肝心。理屈の要らない、そして思い出に残る夜空・星空にまず出会う、これが一番重要です。
そのためのお約束事は一つ。そこに「ライトを消して10分以上いる」です。なぜかというと人間の目は暗闇に慣れるまでどうしても時間がかかります(=暗順応)。最初に見た風景と、10分後に見えている星空、星の数は全然違います。「あ、そんなでもないね」と1分で帰ってしまうのはもったいない!目が慣れるまでもうちょっと我慢しましょう。15分だけでもとても満足できます。
夜中に起きてトイレ行きたくなることってありますよね。その時に見える星空ってすごいと思ったことありませんか??実はそれがキャンプ最高の星空です(笑)つまり、直前まで目を閉じていたのでそもそも暗順応していて、しかも消灯時間をすぎているから周辺も真っ暗。もういうことがない条件がそこにあったわけです。きれいな星空を観たければ、夜中にトイレに行け!(笑)これ冗談ですが、とにかく大事なのは暗い場所と暗順応。
先にも書きました通りキャンプ場にはキャンプ場としての「星空スポット」というものがちゃんと探せばあるのです。なので、ソラが広く空いていて、夜の照明はないが安全な場所、これ昼間のうちにアタリをつけておくといいですね。私の経験では案外管理棟の近くがそうだったりします。
月夜の風情はアウトドアならでは
キャンプ場がいつでも「満天の星」というわけではありません。そう、幸い晴れていてもお月さまが明るいときもあります。けれど、けれど、その月灯りに照らされた森の夜空、シルエットになって見える山の風景も実に美しいのです。これだって「ああ、アウトドアっていいよなぁ」と思わせてくれるとても貴重な瞬間です。特に普段夜をよく知らない子どもたちにはとてもいい体験となるはずです。
オトナたちは「月を見ながら月見酒」なんて、やらなきゃ損でしょう。ちなみに本当の月見酒とは月を見ながら飲むお酒ではなく、盃(コップ)に月を浮かべてそれをグイっとやることなのです。シエラカップかなんかにお月様を浮かべてみてください。エモいっすよ~。ちなみに月の「クレーター」という言葉は、ギリシャ語の盃(コップ)「クラテール」に由来します。盃に盃を浮かべてなんて、なんとアウトドアならではの風流じゃないですか。
ズバリ双眼鏡さえあれば10倍星を楽しめる
キャンプでなにかとすぐにギヤにいってしまうのは大っ嫌いな私ではありますが(笑)、それでもみなさんにおススメしたいのが双眼鏡です。これで星空を眺めるとビックリするほどたくさん見えます。
天体望遠鏡は?と言われるかもしれませんが、ちょっとでかくてジャマでしょ(苦笑)。ガッツリ天体観測キャンプをするというのならいいのですが。
双眼鏡がいいのはまずコンパクトだということ。荷物としても、使い倒すギヤとしても。昼間のサイトにちょっと置いてあったりするとそれがカッコよいい。ギヤ感があるし、なんだか「この人、デキる人じゃないか」って思わせてくれたり(笑)
ただしなんでもいいわけではなくチョイスのポイントがあります。まず倍率。ズバリ言いますと「8倍」を選びましょう。間違っても10倍なんかを選ばないように。手ブレしまくりで、視野が狭くて星が探せないです。次にレンズの口径。表記に「8×32」とか書いてあるのは8倍で口径32㎜の双眼鏡という意味。ここが24~42、出来るだけ大きい数字が欲しいです。数字が大きければ集光力が高まり、いわばでかいエンジンを持った余裕のあるクルマみたいなもの。ここケチるとあんまり星がよく見えないので、一番のチョイスポイントにしてください。最後に「防水」性能があるかないか。できたらあるほうで。水にドボンはさすがにないけど、夜露、湿気、それに雨に強くないとアウトドアで自由に使えないですから。もし防水がないなら出しっぱなしに気を付けてくださいね。
星や星座に興味があるなら、まずアプリを使おう
理屈で星を見るなと言ってしまいましたが、そうはいっても星の名前や星座の名前にはやっぱり興味はありますよね。そこで、これはもうスマホアプリに頼りましょう。各ストアで「星座」と検索すればずらっと無料のものが出てきます。それを夜空にかざせばすぐに星座が一発で解るからとても楽しい。クリックすると神話や星たちの知識が出て来たりしてくれるものも多く、我々星のソムリエの商売あがったりの天敵です(笑)。それほどに面白いです。星が出ていない曇り空でもバーチャルで楽しんだり、雨だったらテントの中で子どもたちとプラネタリウム気分なんていうのもアリですね。キャンプも星空も今やDX!
子供たちに「本当の夜」を体験させたい
いかがですか、キャンプ場へ行ったらとにもかくにも星空と夜空の時間を15分だけ作ってみませんか?それをたくさんのキャンプ場で繰り返すと、今までに気が付かなかったほどキャンプライフが豊かになりますよ。特に子供たちには真っ暗な夜の世界をキャンプの機会に体験させてください。この先大きな災害が万が一来た時に、暗い夜を知った体験が大きな差を生むでしょう。
(執筆者紹介)
SAM(JAC公認オートキャンプ指導者インストラクター)
「キャンプブロガーの元祖」と言われる。小川張りの考案者。アウトドアライター、星のソムリエ®、JAXA宇宙教育リーダー、光学機器メーカー・マーケティングディレクター、温泉ソムリエなど多数の肩書で活動。日本オートキャンプ協会インストラクター養成講座講師も務める。Indeed、マクドナルド、日清チキンラーメンなどのCM監修も多数手がけている。