自然と人との心の因果関係『女子キャンプ日記~6月号より』

2019年6月19日

キャンプのオンシーズンがやってきた。それと同時にわたしは「ビジネスキャンパー」と変化する。キャンプは仕事のみで、ほぼプライベートで行けていない。天気のいい夕暮れどきの小さな空を、窓から眺めていると無性に「あー、キャンプに行きたい」と思う。一体なんなんだろうか。キャンプに行きたいということは、自分は一体それに何を求めているんだろうと自分に問いかけている。

先日、長野県に撮影に行くことがあった。最近は時間がなく近場のキャンプ場で撮影を済ますことが多かったので、仕事といえどもひさしぶりの遠出に心がワクワクした。5月は新緑の季節でわたしが最も大好きな季節でもある。山々の緑が生き生きと、太陽に照らされて光っているのを見てるだけで声にならない声があがる。日々の仕事に蝕まれて心も体も疲れていたのが、不思議にふっと、軽くなる。自分のなかにエネルギーが補充されるような気持ちになった。撮影場所は「高ソメキャンプ場」木々に囲まれた静かなキャンプ場で、釣り池があり、山の向こうにポツンと乗鞍岳が顔を出している。まだ残雪が多くあり太陽に照らされてキラキラ光る雪を見ているとここは本当に日本なのか?という気持ちにさえなってくる。ニュージーランドで見たマウントクックを思い出した。この季節はコントラストが違う。森と光の色が一層際立つのか、一生懸命仕事をしながらふっと空を見上げるととんでもない色の青と緑が目に入ってくる。「あぁ、幸せだ」。わたしたちの(キャンプの)仕事は、決して楽なわけじゃない。現場に行くのは毎回遠いいし、時間もかかるし、天候に大きく左右されることもある。しかし、どんなに真剣で、どんなにストイックな現場でも、そこに気持ちがいい風が吹いたり、めまいがするくらいの木漏れ日を感じたり、いい自然はすぐにわたしたちの張り詰めた心を溶かしてくれる。そんな現場で仕事ができることは本当に幸せなことなんだなと思う。

最近はありがたいことに、書籍の仕事も増えて家にひきこもることも増えてきた。たった一人で朝から晩まで誰とも声を交わすことなく過ごすのは少しだけしんどいときもある(もともと引きこもり大好き人間なので問題はないのだが)とくに、窓から見える空がとても小さいと本当に悲しい。自然と人の心の因果関係はきっとあるのだと思う。よく昔の映画のなかで、執筆中に山奥にある旅館へ長期間ひきこもる小説家が出てくる。自然はアイデアを呼び起こすものだったりしたのだろうか。

コンクリートだらけの小さな空の下にいるのに限界を感じてきたので、わたしもかくいう小説家をきどって、キャンプ場で執筆をしてみたいなぁなんて思うのだ。

 


コラムニスト紹介:こいしゆうか
ゆるいエ ッセイマンガなどを得意とする女子キャ ンプコーディネーター/イラストレーター

(オートキャンプ 2019年6月号 こいしゆうかの『女子キャンプ日記』より転載)
無断転載禁止 執筆者の許可を得て転載しているものです。