「松の灯かりで照らす夜」~トヨタ白川郷自然學校『インタープリター通信』4月号より

2019年9月1日

みなさんはこの木の写真を見て、何という木かわかりますか?かなり多くの方が「あ、松の木かな?」とわかるのではないでしょうか。松の木は常緑で1年中緑の葉を絶やさないことから神が宿る神聖な樹木としてお正月の門松などお祝い事に使われていました。そんな私たちの暮らしに身近な木の1つだと思います。

雪とアカマツの葉

白川郷にはそんな松の木を使った灯りがあります。アカシと呼ばれ、根や枝の付け根にある松脂が多くたまった部分を切ったものを使います。今では使うことはありませんが、昔は和ろうそくや油に灯芯を浸して燃やす灯りよりもリーズナブルなことからよく使われていたようです。実際に火を点けてみると、雪の上でも難なく火が付き燃えています。

最近流行っているブッシュクラフトでは焚き火の最初に火口(ほくち)として使うことが多いようで、ファットウッドやファイヤウッド、ティンダーウッドと呼ばれています。松明(たいまつ)もその漢字の通り、この部分を使って作ります。

森から集めたファットウッド

これを見て、おっと思われた方は、まず倒れてしまった松の木や折れた枝を捜してみてください。倒木を見つけるのはなかなか難しいと思いますが、白川郷のような雪国であれば春先に森を歩くと冬の間の雪の重みで折れた枝が見つかるかもしれません。見つかればその木の幹に近い付け根の部分を切ってみて下さい。半透明でひと際匂いが強いところがお目当ての松脂がたくさん溜まった部分です。

みなさんはキャンプに行かれた際、サイトを照らす灯りにどんなギアを使っていますか?ガソリンランタンやガスランタン、最近はLEDの性能が飛躍的に上がり明るいものが増えてきたということもあり、電気ランタンだけなんていう方もいらっしゃるかもしれません。そんな最新のギアに比べると、このアカシは火そのものなのでテントの中では使えません。煤も出てしまいますし、サイト中を照らすほどの光量もありません。しかし、ゆらゆら揺れる炎や少しずつ足しながら育てていくアカシはいつもと違った幻想的な夜を演出してくれるのではないでしょうか。ぜひ、次のキャンプで捜して使ってみてはいかがでしょうか。ただし、枝を採取する際は土地の所有者の方の許可を受けることをお忘れなく。

燃えているアカシ

<インタープリタープロフィール>

佐藤 翔太郎(さとう しょうたろう)

茨城県出身。自然の中で過ごす楽しさを広く伝えたいと思いトヨタ白川郷自然學校へ。現在は冬はBCスキー、春からはテンカラ釣りと四季折々の白川郷の自然を満喫中。

(オートキャンプ 2019年4月号より転載)
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