「美しいキャンプ」について考える ~マナーとモラルの再認識で(前編)

2021年7月12日

「美しいキャンプ」について考える ~マナーとモラルの再認識で
前編 「マナー」と「モラル」の勘違い

アウトドアライター SAM

キャンプにおいて必ず問われる「マナー問題」。なかなか進みづらいこの課題解決に関し、問題点の整理と目指すべき方向性を、前後編に分けてお届けします。テーマは「美しいキャンプとはなにか」です。

●マナー問題が起こる外的要因

ブームと言われるなか、ここ2、3年でのキャンプ人口は大幅に伸びています。単に人口が伸びただけではなく、各メディアでの露出が格段に上がり、アウトドアレジャーの魅力が世間に広く伝わるようになりました。

いっぽう総体の人口が増えれば、必ず様々な問題点も顕わになってきます。中でも顕著なのが一般的に言われる「マナー問題」です。

キャンプは自然と触れあう自由な時間でありつつも、そこにはキャンプ場というくくりの中での共同生活があり、すべての行動が自由ではないことは誰もが承知しています。

そうは分かっていながらも「マナー問題」がこうも注目をされてしまうのは何故なのでしょうか。

あるキャンプ場のオーナーはこう言います。

「キャンプは出来るだけ自由度の高い遊びであってほしい、そう思っています。同時にキャンプ場という中での秩序を守るためにはルールをある程度示さないといけない。どこまでを伝え、どこまでが自由なのか、これがそもそも一定ではなく、ずっとこの基準が曖昧であることに悩んでいます」

「自由と規制」、この二律背反こそキャンプにおける最大の課題であり、また、このボーダーラインが見えないことがマナー問題の未解決を引きずってしまっている大きな要因だと考えます。

●「マナー」と「モラル」の混同と混乱

もう一点、マナー問題を不明瞭にしている要因があります。それは「マナー」と「モラル」がごちゃごちゃになってしまっている点です。このおおきな違いがある二つが長く混同されていることも問題解決の見えない足かせになっているといっていいでしょう。

まず「モラル」ですがこれは直訳すれば「道徳」、つまり誰であれ例外なく順守するものです。

たとえば最近言われる「焚き逃げ」はまさにモラル無視の典型。ごみ放置問題も同様。キャンプ場内を猛スピードで車を走らす、これは生命の危険を伴う絶対にやってはいけないモラル違反です。つまり「誰もが例外なく守るべき絶対的な前提」、これがモラルになります。

多方、曖昧なのが「マナー」。いったんモラルと分離して考えてみましょう。まず直訳すると「作法・所作」。

テーブルマナーという言葉があります。なぜそれが必要かと言えば、ある限られた空間(レストランなど)で、周囲の人との協調を重視するからです。しかし、各家庭の気楽な雰囲気の中でそのテーブルマナーを行使している人は少ないでしょう。つまりマナーとは他者との協調に必要な、周囲との相対的な所作であり、別の表現をすれば「気遣い」なわけです。

自由であることと気遣い、できるだけリラックスしたくてキャンプにきたが、キャンプ場という共同生活の中で、いっぽうでは周囲に気を遣わなければならい、まさにこのギャップのか中で生まれてくるのがマナーの問題です。

隣の音楽がうるさい、よくある話です。これぞまさしく相対なもので、相手がうるさいと感じる基準は明確ではありません。逆に言えば、その音楽がかかったことで雰囲気がよくなった、そう感じる人だっていなくはないわけです。マナー違反かどうかは当人同士にゆだねられる判断になるわけです。

※ただし、キャンプ場にて「音楽をかけないでください」とルールブックに謳っている場合は、これに従わなければルール違反=「モラル違反」となることは注釈しておきます。

結局、キャンプその行為の中にマナーがあるわけではなく、「キャンプ場という他者との共同生活空間」において初めて「マナー」というものが存在してくるわけです。

●キャンプ場は壁無き相互協調空間

マナーの基準にはどうしても個々人による「幅」があります。共同生活の場でこれを調整するにはどうしたらいいのか。

ひとつは「コミュニケーション」。例えばあいさつを交わすだけでも成立します。まず隣人であることを明らかにしていくことで、協調の根底が醸成されます。これは案外大事なのです。

次に大事なのは「寛容性」です。共同生活のなかでは、自分の基準だけで他者に対し拒否感を強めるだけではなく、多少なら寛大でいてあげる、言い換えれば心の余裕を持って「流してあげる」ことです。それで収まったらもうよしとしましょう。とはいえ、その寛大さも数回までかもしれません。それでも収まらなかったその時は、初めて自分(たち)の限度=基準を相手に示して理解を求めてみましょう。

これで解決できないことは、もう相対としては無理です。この先は第三者=キャンプ場の方にお手伝いいただき、キャンプ場としての基準値に照らし合わせて落としどころを見つけてもらいましょう。

とにかく大事なのは、双方、キャンプ場は壁無き相互協調空間であるということをしっかり認識することです。見えない壁の向こうを気遣い、同時に、心の壁をいきなり作らない寛容さを持ち、互いのキャンプをまず尊重する、この所作こそ「キャンプのマナー」と言えるのではないでしょうか。

※後編の「美しいキャンプがもたらすもの」へ続きます。


(執筆者紹介)
SAM
アウトドアライター/コラムニスト。”キャンプブロガーの元祖”と言われる。多方面のメディアにも出稿、CMコーディネート、日本オートキャンプ協会インストラクター/講師、星のソムリエ®、JAXA宇宙教育リーダーなど幅広い分野で活動中。著書「ベテランキャンプブロガーSAMの、お気に入りキャンプ場教えます」(ベースボールマガジン社)

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