以前、キャンプ料理に欧米の著名シェフのレシピを参照していると書いたことがあります(2014年4月号にて)。見た目にも洒落ていて、キャンプ同様の調理法も見受けられるのでアウトドアに馴染むのは当然でしょう。
今回は料理人でありながら、非常にユニークな活動を続けている女性をご紹介しましょう。その方はアメリカのアリス・ウォータース。アリスはフランス留学中に現地の料理に魅了されてから料理に没頭し、1971年、カリフォルニア州にレストラン「シェ・パニース」を開店しました。同店は、いまや全米でもっとも予約の取れないレストランともいわれています。特徴的なのはオーガニック食材を使用していることと日替わりのコースメニュー1種類のみというユニークなスタイルにあります。
彼女の著書は多数、日本でも翻訳されているほか、NHKが『アリスのおいしい革命』という番組を製作しました。しかし、レシピ以上に、私が注目するのは彼女が地産地消(地域で獲れた食材を地元で消費すること)、サステナブル、スローフード、食育といった信念に基づいて、レストラン運営にとどまらず行動している点。
なかでも食育においては、学校内に菜園を作るように働きかけ、それを実現しました。子どもたちと野菜を育て、菜園で一緒に料理をしたり、屋外でともに食事をしたりと熱心です。アメリカではファーストフードを日常的に普通の食事として食べる子どもたちが多数います。彼らが野菜はどのように生育し、どんな風に調理して食べるのかを学ぶことは非常に有意義でしょう。TV番組でもその様子が紹介されていました。
彼女の本を読むと、調理・食事がいかに人生において大切であるかが説かれています。おいしい食事は健康のためだけでなく、人と人との絆を深める重要な要素です。
これらの活動を見ると、食事や調理を伴うキャンプにも、同様の役割を担うことができるのでは?と感じます。すでに農園を併設したり、地域の文化や伝統食を紹介するワークショップを行ったりするキャンプ場があるのは見聞きしますが、全体から見れば、まだまだ少数派でしょう。先ほどアリスの理念の一つとしてサステナブル(持続可能の意味)を挙げました。これは地球環境に配慮しながら、人間の社会や経済などを持続する考え方。最近は、様々な業種でトレンドのキーワードとなっています。
レジャーとしての楽しみやサービスの追求とは違った視点で、よりよい社会づくりにつながるキャンプの取り組みを考えてみてもよいのではないでしょうか。
コラムニスト紹介:ビューティフルキャンピング(ペンネーム&活動名)
ファッション誌、ファッション広告を中心に編集・執筆を行う。2011年春から、キャンプ空間をスタイリッシュに演出する楽しみ方「ビューティフルキャンピング」を広めようと活動中。
http://beautifulcamping.net/
https://www.facebook.com/BeautifulCamping
(オートキャンプ 2019年8月号 『キャンプの作法』より転載)
無断転載禁止 執筆者の許可を得て転載しているものです。