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先日、白馬の五竜岳に登りに行った。
久しぶりに山の上でテント泊なんかもしたかったのだけども
このご時世で、白馬の山々の小屋やテント泊はもう予約がいっぱいだった。
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山登りをはじめてもう10年くらい経つ。
回数はそんなに多くないけれども、旅をした先に山があったら登り、
ふと思い立って遠くの山を目指してクルマを走らすこともある。
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わたしがキャンプを始めたばかりの頃、
なぜかあまり近くもない白馬のキャンプ場まで足を運んだことがある。
そのキャンプ場からは、白馬三山がこれでもかというほど美しく見え
「富士山以外にもこんな大きな山があるのか!」と驚いたことをよく覚えている。
その山に登る日が来るなんて思ってもみなかった。
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キャンプに行くと、ぐっと山との距離が近くなる。
しかし、ハイキングまでは行けても登山は少しだけハードルが高かった。
そのハードルをちょっと乗り越えてみようかなと思ったのはキャンプをはじめて2年後くらいだった。
日本全国どこでも美しい山が目の前にあり、せっかくなら登れるようになりたい!と思ったのだ。
最初は、アクセスしやすい丹沢に登った。
バカ尾根という急な坂道をただただひたすら歩き、
頂上に立ったとき、ふと知らないおじいさんに声をかけられた。
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「あんた、すごいねぇ。全然息が切れてない。肺が強いんだよ。登山向きの肺をしてる」
疲れると手に血管が浮くらしいが、それもなかったのでおじいさんは関心そうにわたしを見ていた。
(そうか、わたしは登れる人なんだ)
しかし、体力はあっても山の知識がない。相手は自然だ。よく知らないと痛い目にあうかもしれない。
友人の勧めもあって、わたしは何冊か「遭難の本」を読んだ。山のハウツーよりも
どんなパターンで遭難があるかを頭に入れておくだけでも違うと言われたから。
その後も、やっぱり山に一人で行くのは危険かもしれないと避けていたが、
最近とうとう一人でも登るようになってしまった。
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一人の登山は少し心細いけれども、
無心になれる。ただただ黙って空を見て地面を見て、一歩一歩歩く。
岩を登るような山もあれば、林間のうっそうとした場所でうっかり道がわからなくなる山もある。
下山をして温泉に入り、キャンプ場に戻る頃、
わたしだけの山の思い出ができあがる。
その思い出を振り返りながら、焚き火をする時間がたまらなくいいのだ。
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キャンプは自然遊びの入り口だ。
テントを建てて、そこから山に登り、
「ただいま」と帰ってこれる。仮の自然のお家とも言える。
自然のお家の中にばかりいないで、
ときにはキャンプ場から見える景色のなかを歩いてみる、
そんなキャンプもいいなぁと思う。
下山をして、キャンプ場に戻ると、白馬の山々が雲から顔を出していた。
(登ったなぁ。あの中歩いたんだなぁ)
なんて思うと、あの山がもっともっと美しく見え、
もっともっと山が好きになっているから、不思議だ。
コラムニスト紹介:こいしゆうか
ゆるいエ ッセイマンガなどを得意とする女子キャ ンプコーディネーター/イラストレーター
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